少女マンガは読まないけれど、吉田秋生は読む。何の迷いもなく読む。これはぼくだけではないようで、吉田秋生についてのエッセイで誰かが書いていたように記憶している。
最初に手に取ったのは、連載開始からずいぶん経ったあとの 「BANANA FISH」。何かの雑誌で、呉智英のレビューを読んだのだと思う。家から少し離れたところにある古書店で、陽に焼けて背表紙が変色した「BANANA FISH」がビニールに包まれて15冊ほどまとめて売られていたのを、一冊100円くらいの値段で買った。新刊が出るたびに、黄色いコミックを買い足していった。文庫化された古い作品を買い、 「ラヴァーズ・キス」、 「YASHA」
、 「イヴの眠り」と読み進めていった。ずいぶんと長い付き合いになったものだなあ。
夏に出た、 「海街diary 4 帰れない ふたり」を、二ヶ月ほど遅れて読んだ。
鎌倉の古い木造家屋に暮らす、看護婦できつい性格の幸、信用金庫に勤める酒好きの佳乃、スポーツショップで働く変わり者の千佳の三人姉妹。父は古い家と、家族を捨てて出奔し、母もまた再婚して家を捨て、育ての親の祖母は死に、古い家には三人の姉妹だけが残された。鎌倉から遠く離れた山形から届いた父の訃報、葬儀に訪れた三姉妹が出会った、父が残した異母妹、浅野すず。三人姉妹はすずを引きとり、鎌倉で四人姉妹の共同生活がはじまった。物語は四人姉妹と彼女たちを取り巻く周囲の人々をめぐって淡々と織りなされていく。
「海街diary 4 帰れない ふたり」は、ページをめくる間、奇妙に緊張感が高まる一冊だった。それが作品の持つ強度に由来するものなのか、ぼく自身のテンションの問題なのか、いまひとつはかりかねている。1巻目を読み終えたときに、これはとてつもない傑作が生まれつつあるという予感と、そうした作品を手にした喜びを感じたのだけれど、もっとシンプルな体験だったような気がする。
久しぶりに出た続編を手にするにあたって、ぼくは「ラヴァーズ・キス」からさかのぼって読み返した。 「海街diary 1 蝉時雨のやむ頃」には、「ラヴァーズ・キス」の登場人物の一人、藤井朋章が次女佳乃のボーイフレンドとして登場する(さらに 「海街diary 2 真昼の月」には藤井朋章の叔母美佐子が幸の先輩ナースとして登場する)。手元にある別コミフラワーコミックス版の「ラヴァーズ・キスU」の見返しに載せられた「作者からのメッセージ」に、こんなことが書かれていた。
私は東京生まれですが、父の仕事の関係で数年鎌倉に住んでいました。鎌倉での生活は楽しいことばかりで、今でも鎌倉は第二の故郷みたいに思っています。また大好きな鎌倉を舞台にしたマンガを描きたいな。
「ラヴァーズ・キスU」の初版は1996年、「海街diary 1 蝉時雨のやむ頃」の初版が、2007年。およそ10年の歳月を経て、吉田秋生は鎌倉に帰ってきた。