「アートは心のためにある:UBSアートコレクションより」(東京・森美術館)

art 】 2008 / 02 / 21
Brutus No.633号『すいすい理解る現代アート。』は東京メトロの売店でタイトル買いして目を通したが、割と行き届いた内容だった。現代美術の概観もコンセプチュアル・アートからミニマル・アートへ線を引いている(歴史的に逆だと思う。コスースの仕事よりもルウィットやジャッドによるコンセプチュアル・アートの萌芽ともいうべきエッセイが先に来るはず)ことを除けばおおむね納得のいくまとめ方。けれど、以前取り上げた「pen」の特集に比べて、バランスを取りすぎた分だけ書き手の思い入れが乗っていない感があって、読み応えは乏しい。いらないや、とばかりに職場の制作ルームに寄贈してしまった。

で、Brutusの特集中に森美術館「アートは心のためにある:UBSアートコレクションより」が割と大きく取り上げられていたのがことの始まり。

展覧会概要を見ていたら、ジョン・バルデッサリの作品が取り上げられている。えー、バルデッサリって、取り上げるほどメジャーな作家になってたわけ?

ぼくはずいぶん前に、コンセプチュアル・アートの作家の一人として彼の名前を知ったのだけれど、作品を生で見たことがなかった。手元に、1983年に東京国立近代美術館と京都国立近代美術館で開催された「現代美術における写真」という展覧会のカタログがある。鉛筆書きで「1,000」とあり、これは古書店で購ったもの。この展覧会がやけに作家のチョイスが行き届いていて、国内外の重要な美術作家における写真表現をカバーしていると感じた。その中にはバルデッサリも含まれている。

バルデッサリの中では有名な作品のひとつに「鉛筆物語」というのがあった。ぼくは雑誌でモノクロの小さな写真を見たが、使われて先が鈍くなった写真があり、「このちびた鉛筆はずっと目に付くところにあって、汚れてて不快だったのでずっと削ってやろうと思ってたんだが、ある日思い切って削ってやった。よくわからんがこれって美術となんか関係あると思うよ」みたいなキャプションがついていて、きれいに削られた鉛筆の写真がある、といった作品。なんだか、いがらしみきおみたいだ。それを見て以来、バルデッサリは気になる作家の一人ではあった。

手帳をまともに使い始め、少し流れ始めてきたところで、ちょっと動いてみようかな、という気分になってきたこともあり、「東京アートビート」あたりを眺めていたら、森美術館は火曜日を除いて平日は22時まで開館していたことに気がついた。職場からは一駅。予定を入れ込んで、20時で仕事を終えて行ってみるか、と相成った次第。

思い起こすと、展覧会に行くのは2004年の「Pilot Plant」以来なんじゃなかろうか。美術館に足を運んだとなるとこれはもう、10年前のMOTの河原温以来とかそんな話で、不義理にもほどがある。そんなことを思いつつ、麻布十番で降りて7番出口へ。ゆるやかなスロープをのぼらされたかと思えばエスカレータは何度も地下へ向かい、こりゃ失敗だったかな。なぜか途中つけめん大王を見かけるや野菜つけめんを食ってしまうあたりがいじましい。宵闇の中に輝く宮島達男のパブリックアートを横目で眺めつつ森タワーへ。なにぶん久しぶりなものだから、どういう風に気分を作ったものやらよくわからない。道すがら気になっていたのは、出品アーティストの一覧におよそまとまりがなく、このコレクション、大丈夫なのか? ということだった。

入場料1500円。高いなあ。しかも展望台だかがその日に限って閉まっている。入場券が共通なのに、だ。割引しろ。苦笑。エレベータで52階まで上がり、エスカレータを抜けて入場。建物自体の作りは非常にいい。グールドのバッハを聞きながらゆっくりと眺めはじめる。回廊のような空間構成で、天井は高いが大作を見るのにちょっと距離が取りにくい場所もある。平日の夜ということもあり割と入場者は少なく、離れたり思い切り寄ったりしながら存分に作品を楽しめるのはいい。ロイ・リキテンシュタインあたりはあまり好きな作家ではないのだが、近くに寄ってまじまじと見ると結構いいなあ。

でまあ、このコレクション大丈夫か、という点については杞憂だった。写真作品が多いが、結果的に高いレベルの作品が集まっている。企業のコレクションということで、特定の方針にのっとって収集することは難しいだろうし、結果的に評価されない作品が固まらないようポートフォリオ的な発想で散らしておけ、という金融機関らしい取り組みなのかもしれない。笑い。

3つのパートに区切った展示構成は正直微妙で、バルデッサリの作品(正直これはあまり良いものとは思えなかった)も2点が離れて置かれている。ただ、森村泰昌とシンディ・シャーマンを併置するなど、ところどころ気の効いた部分はあった。日本での展覧会ということもあり日本人作家をコレクション全体の比率に対して多めにチョイスしたのではないかと思うが、森村のほか宮本隆司、畠山直哉あたりはいい作品を選んでいる。個人的には荒木を買うなら森山大道だろうと思うが、そこは個人の趣味かもしれないし、実より名を取るというコレクションの方針か。リヒターは確か4点あったが最良のアブストラクト・ペインティングをカタログからはずしているのがなんとも。ダミアン・ハーストは実に無難な作品で、名前だけで入れた感じ。次回開催の「英国美術の現代史」で代表作がくるようだが。

展示作品中で最もよかったのは、今までまったく知らなかったコロンビアのオスカル・ムニョスという作家の2点。あとでカタログを見て、気に入った2点が両方ともムニョスの作品だったと知って驚いた。コロンビアという、現代美術を考えるときにまったく意識したことのない国の作家であることも驚き。「ピクセル」というシリーズは角砂糖をコーヒーで色づけしてアクリルケースに並べたもので、離れて見るとコーヒーの濃淡でぼんやりと肖像が浮かんでくるもの。「メモリアル・プロジェクト」はビデオ作品。5台のディスプレイにグレーの壁が映されているもの。そのうちの1つに水で肖像画が描かれる。一つが描きおわると別のディスプレイへ。描かれた肖像画は乾くとともに少しずつ消えていく。ぼくはわりあいビデオ作品を良いと思わない性質なのだが、これは脱帽。いずれも高度に操作的でありながら確かな情感がにじむ。ちょっとムニョスは他の作品も気になる。

そんなわけで、高いと文句をいいつつも満足いく展覧会かと。ただし、UBSコレクションの続きの部屋に森美術館のコレクションを並べたスペースがくるのだが、これがまあ正直ひどい。「森美術館は、2005年の夏に、「森アートコレクション」として、日本を含むアジアの現代アート作品を対象としたコレクションを始めました。」と高らかにうたっているのだけれど、まだ見せないほうがよかったと思いますよ、ほんとに。

カタログ2500円を購入。しっかりした造本で装丁も凝っているのだけれど、リヒターについて触れたように展示作品の一部が収録されていないのがなあ。おまけにつけてくれたポストカードの作品のチョイスもいけてない。はずれカードを引いたのか? 笑い。

来た道を通らず商店街を抜けると4番出口についた。次回はこちらから向かうことにしよう。展望台はいつもなら23時までやっているらしいので、美術館を回ったらそちらも。「カンガルー・ノート」を読みつつ帰宅。


※追記(2009/1/26)
オスカル・ムニョスは2007年のヴェネツィア・ビエンナーレに「メモリアル・プロジェクト」を出品していたようで、YouTubeにあったもので作品の雰囲気はつかめるかと思います。


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