セグメンテーションの深層

marketing 】 2008 / 01 / 23
先の「セグメンテーションの幻想」というエントリーについて、思いかけずあんけいさんの「dIG iT」からトラックバックをもらった。Web解析についての実践的なノウハウを日本語で伝える数少ない情報源のひとつ(もうひとつあげるならば(元?)ネットレイティングス衣袋さんの Insight for WebAnalytics)として目を通してきたので、ちょっとびっくり。

少なくとも現場の視点で必要性を訴えられると、そこは頷かざるを得ないところ。実際に使えるものを幻想だと言い切ってしまうのはあまりに乱暴ですよねえ。このあたり、怪しいマーケターとしては弱いところであります。笑い。しかしながら、あんけいさんの「セグメンテーションの現状。」というエントリーを読んでなおぼくのなかに残る疑念があって、そのあたりもう少し何とかならんのかと書きはじめる次第。

さて、あんけいさんが指摘してくれたセグメンテーションの有用性は大きく分けて、
  1. 一人当たりに送出できるメッセージボリュームが有限であると考えた場合、セグメント別にメッセージを最適化することにより、メッセージボリュームあたりの効果を最大化できる。
  2. セグメントを切ることにより、送出するメッセージを含めたシナリオ設計が容易になる。
の2点だろうと思います。

実際、ぼく自身もかつてはおおむね同様に考えていたはずなんですが、あまりにB2Bのマーケティングに深入りしすぎたせいなのか、度を越したネット中毒だからなのか、そもそもの
【セグメントされた見込み客】 に 【最適化されたメッセージ】 を渡すと 【成果】 が得られる
というモデルが、現時点でほんとうに有効なのか疑いはじめているわけです。

このモデル自体は非常にシンプルで、その有効性はまず疑うべくもないと思います。ところが、実際にメッセージを最適化できるレベルでセグメンテーションできるのか、という部分においては、無力さを感じざるをえないんですね。

B2Bのマーケティングは携わっている方ならおわかりだと思いますが、合議制をベースにした複雑な意思決定プロセスと企業それぞれの組織設計により、購入決定を行うキーマンの特定が難しく(例えば部署名や役職からキーマンかどうかを判別できない)、かつ予算執行のタイミングがキーマンの意思以外の要因で制約を受けるという特徴があり、ストックのデータから有効なセグメントを取り出すのがそもそも困難です。

これに対して、B2B向けのソリューション情報を提供するWebサイトでは、ホワイトペーパーなどのダウンロード時に属性情報と合わせて目的(購入のための情報収集か否かなど)、購入への関与度(購入の意思決定を行う立場か否か、購入にあたって助言をする立場か否かなど)や購入時期(今すぐ、1年以内、予定なしなど)を合わせて答えさせるケースをよく見受けます。こうした手法で得られた情報はセグメンテーションで繰り返し使うというよりも、セールスファンネルのどこに位置するのかを見極めて適切なタイミングで対面営業につなぐ、というセールスプロセスの設計で活用すべきで、長期的にそこから何かを生むのはなかなか難しいところ。というのは、1年、2年といったスパンで本人がまったく別の部署に異動したり転職してしまったりするからなんですが。

そう考えると、買い手の事情により長期的に個客と関係を深化させることが難しいたぐいのB2Bビジネスのマーケティングでは「企業が顧客に届けたい情報」をプッシュするモデル自体が成立するかどうかが微妙で、セグメントを維持するコストに見合うLTVを獲得できるのか、が焦点になるのでしょうか。

一方、B2Cはといえば、そもそも潜在顧客がトリガーとなる情報にどこでタッチするのか、どのチャネルで購入するかが非常にわかりにくくなっていて、適切なタイミングで適切なメッセージを届けるのが困難になっている印象を受けます。このあたり、一度ちゃんと消費者行動論を勉強しないといかんなと思うのですが、我が身を振り返ってみても購買行動を単一のソースに還元するのが難しいケースがままあります。しかも論理的に説明できないことをよくやるんですよね。買わないものはある程度セグメント化でき、買いそうなものもさらに小さい確率で特定できるけれど、いつ買おうとするかを推定するのはかなり困難だとすると、メッセージを最適化できてもそれを送出するタイミングをコントロールできない、ということになります。それでも、もちろん何もしないよりはやった方がよいわけですが。

ここまで考えてはじめて、セグメンテーションが使えそうな業種が思い浮かびました。季節要因で消費が動き、嗜好性が高い、複数ブランドを抱えるアパレル系の通販などはまさにそれ。男か女か、オーセンティックかコンサバティブか、流行を追うか自分のスタイルを持っているか、といった切り口でおそらく長期にわたって変動しないセグメンテーションの設定が可能でここに春夏か秋冬かを加えてメッセージの最適化をすれば精度も上がると思います。残念ながら縁のない業界ですが。苦笑。

はてさて、最後にセグメンテーションに拠らないWebマーケティングをどう組み立てるのかを素描しておきます。

結局、セグメンテーション仮説を用いたマーケティングというのは、再購入などを通じたLTVの向上を前提に顧客の囲い込みが有効だとする考え方に基づいていると思います。しかし、顧客の囲い込みはロックイン戦略なしには成立しません。そこで再購入せざるを得ない動機なり理由なりをどう顧客の中にデザインするかがカギになるのですが、チャネルの多様化、決済手段や受け取り手段の多様化、売り手と買い手の情報の非対称性の崩れからスイッチングコストが大幅に下がり、ロックインのためのコストが相対的に大きくなっていると見るべきではないでしょうか。

一方で、「企業が顧客に伝えたい情報の総量」は増えることはあれ減ることはありません。そして、顧客がそれを欲するタイミングは様々で、必ずしも企業が送り届けたいと考えているタイミングとは一致しません。それゆえ、企業から一方的に情報伝達するモデルはもはや限界に達していると考えるべきでしょう。

Webサイトを開設し、そこにきてもらうことで企業にとって好ましい反応を促す、というモデル自体はそれでもいまだ有効です。それゆえ、メールマーケティングを起点にした来訪促進というモデルを大幅に拡大すべき、というのがとりあえずの方向性。いわばメールの一本釣りだったものをSEOやSEM、ソーシャルメディアへの浸透(mixiに広告を出せ、ということではない)も含め、投網のようにネット上の顧客接点の拡大に向かう時期がきているのではないかと。タイミングを取るのが難しいならば、そのタイミングに露出するためのしっかりした仕組みをつくることが結局すべてなのではないでしょうか。欲しいと思わせることが難しいならば、欲しいと思ったときに一番手近な場所にあることを目指す、そのための戦略が今必要になっています。

重要なのはフローの情報をストックの情報にきちんと変え、取り出しやすいUIで提供すること。さらに、それが必要なときにサジェストするためにひとつの情報を多様な切り口に展開し、ネット上のプレザンスを上げること。そして、情報の編集は思い切ってユーザにゆだねてしまうこと。その際、リアルチャネルを持つ企業は既存の商流を一度きちんと整理した上で、情報の流れが切れている部分を重点的にWebサイトで補完していくことを念頭において、整合性のあるコミュニケーションプランを立案する必要があります。ここを小手先のテクニックでしのぐくらいなら、幻想でもセグメンテーションにすがった方がよほど健全。

SEMはあらゆる場面を設定して詳細なキーワード設定を行った上で配信すればユーザが自ら文脈をつむぎだす上での助けになります。機能や使われるシーン・役割を製品を軸に包括的に描いた上で必要なランディングページを用意しキーワード広告を配信することで、会員/非会員を区別することなく《結果的に》より大きなボリュームとして繰り入れることが可能になります。

ぼくがこのことを考えながら思い浮かべていたのはThinkPadのWebサイトです。IBM(現Lenovo)は製品を軸にフローの情報をきちんとストックの情報として管理し、いつでも取り出せるようにしています。ぼくが使っている2003年製のThinkPad A30もIEでリンクをクリック(残念ながらFirefoxには未対応)すると自動的に型番を判別して関連情報へのリンクが一括して表示されます。そこではいまだにドライバがアップデートされており、保守マニュアルをダウンロードできます。彼らはぼくに一度たりともメールを送ってくることはなく、ぼく自身も新品を購入しない悪い客なんですが、ThinkPadに対するロイヤルティは高いと思います。口頭で他人に薦めることもありますし、本雑記でも何度か触れていますから、彼らのネット上のプレザンスをわずかながら高める役には立っているはず。ほんとかよ。笑い。

しかしながら、現実的にはさまざまなメディアで社内に散在する情報を管理してWebサイト上できちんとパブリッシュし、それを前提にどうコミュニケーションするか、というプランニングがまともにできている企業は少ない気がします。これは単にCMSを導入すれば解決するという話でもなく、そのおかげで仕事にありつけるというのがまた微妙な感じ。




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この記事へのコメント
衰弱堂さん

こんにちは。あんけいです。

内容が濃く、まだ全てを腹に落とせていないので、内容へのコメントはちょっと控えますね。

ただ、非常に興味深く読ませて頂きました。

自分でももう少し整理して、もう一度エントリーにしてみようと思います。
Posted by あんけい at 2008年01月24日 00:09
あんけいさん:

改めて読み返すと、どうも長く書いている割に語っていない、もしくは語りきれていない部分も多く恐縮です。書いた本人もちょっと落ちきってない気はしています……。
Posted by 衰弱堂 at 2008年01月24日 09:01
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Excerpt: 今回、衰弱堂さんのエントリーやコメント(※1)などを含めて改めて自分の行っていることを見直すきっかけとなりました。非常に良い体験だったと思います。 さて、セグメンテーシ...
Weblog: dIG iT
Tracked: 2008-02-04 23:33
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