本橋信宏「心を開かせる技術」(幻冬社新書)

books 】 2007 / 05 / 18
本橋信宏「心を開かせる技術」(幻冬社新書)を新古書店で購入、最後まで興味深く読んだ。

書名とは裏腹に、心を開かせる技術について体系的にまとめられているわけではない。副題にもあるようにAV女優から元赤軍派議長まで、多くの人にインタビューしつづけてきた著者は、ただ「他人の半生への好奇心」という言葉でそれを代弁する。

技術ではなく、自分とは違う目の前の他人の半生についてもっと知りたい、という好奇心で動かされてきた、人見知りが激しく口下手を自称する著者。その折々の著名人へのインタビューのシーンを切り取った一つ一つが瑞々しく、読み手の好奇心を喚起する1冊。



ひとつひとつのインタビューにはそれぞれの背景や目的、異なる職業の相手がいる。その一人一人に対して、なんとか彼の、彼女の半生を自分の中に描き出したいという執念。実現に至るまでの様々な意匠と細かなテクニック、偶然による僥倖が、具体例に基づいて書き込まれていて、他人とコミュニケーションするということがどういうことかを、ひとつひとつのエピソードがさりげなく描きだしている。

はじめて梶原一騎に会ったとき、一介の記者に過ぎない自分にも声をかけてくれたこと、インタビュー内容について事務所とぎりぎりの交渉を経て実現した山咲千里が記事掲載後手書きのFAXを送ってきてくれたこと、村西とおるの話術に潜むテクニックの数々、元赤軍派議長塩見孝也との風俗探訪、そして名もなき人たちとの、インタビューに形を借りたコミュニケーション。

心を開かせる技術は、同時に心を開く技術でもあるのかもしれない。それは結局のところ、技術と呼べるようなものではなく、ある種の心構えや覚悟を意味する。人の半生は、それがどのような人であっても興味深いという点にぼくも同意する。が、興味本位でそれに触れると、却って自分が思わぬ深手を負うことさえあるにちがいない。ナイーヴな著者がそうした心構えや覚悟を背負った上で、すれ違いも厭わず、傷つけ、傷つけられつつもひたすらにコミュニケートしようとする姿は、なんだかすがすがしい。最近なんとなく人付き合いが億劫、というような人には特に一読を薦めたい。

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この記事へのコメント
これ読もうと思っていて、まだ読んでなかったな。
インタビューの仕事、プロのライターはすごいと思うよ。16歳のタレントと対等にしゃべって仲良くなって、そんでちゃんとアドバイスまで嫌味なくする普通の40歳くらいのおっさんライターの仕事ぶりを見て、たいしたものだと思った。話す内容やレベルの持っていきかたは、情報の下調べ以上にセンスやキャリアの問題が大きいかも。
Posted by ムラダス at 2007年05月19日 07:26
ああ、これはムラダスさんには読んでほしいなあとは思ってました。
でも、持っている資質的には著者もムラダスさんもそんなに変わらないと思う。それを仕事として受け入れる覚悟と諦念があるかないか、じゃないのかなあ。
Posted by 衰弱堂 at 2007年05月19日 08:44
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