すべてがFになる?

marketing 】 2009 / 09 / 17
 一昨日には、最近ようやく翻訳が出たばかりのAvinash Kaushikの新刊"Web Analytics 2.0"が出るらしい、今度もペーパーバックで480ページか……、などとつぶやいていたはずなんですよ。そうしたら、昨日いきなりAdobeがOminitureを18億ドルで買収に合意、のニュースが出て、もういきなり新刊の前提がすっかり変わりそうな気配が漂っているわけです。なんというタイミング。

 オムニチュアの日本法人サイトが早々にこの件をサイトのトップに出して英文のプレスリリースへのリンクをつけたのに対して、アドビ システムズ社の昨日のニュースのトップは

 「別冊 島耕作 meets Acrobat 9」を公開中!

 オムニチュアよりハツシバですか、そうですか。苦笑。ちなみにUSサイトではちゃんと"Adobe to Acquire Omniture"がトップでした。まあ、アドビの日本法人としては問い合わせされても何もわからないから、ということなんでしょうか。

 一部では、かげりの見え始めたソフトウェアパッケージビジネスからSaaSへの転換を意図したgood dealみたいな話もあるようですが、すでにAcrobat.comみたいなものがあるようですし、ことはそんなに単純でもないのかと。

 この"Adobe to Acquire Omniture"では一応建前上のビジネスモデルが図解されていて、Adobeの"Create" → "Deliver" → "User Engages"というビジネス領域とOmnitureの持つ"Analyze" → "Optimize"というビジネス領域が統合されるということのようです。

 しかし、そんなにうまくいくものなのでしょうか?




Adobeは何を買いたかったのか?
 AdobeはPhotoshopやIllustratorのようなデザイナ向けのパッケージソフトウェアを中心にmacromedia、ColdFusionといった企業を買収しつつ着々とWebサイトの制作サイドを顧客として取り込んできた企業。一方、OmnitureはSaaS型のソリューションであるSiteCatalystを中心にコンサルティングサービスを強化し、Web Analyticsソリューションベンダーのトップブランドに急成長した企業です。

 Webサイト、をキーワードにすれば親和性がなくはないわけですが、顧客層は重ならないですよね。AdobeはあくまでWebインテグレータやデザイン事務所、個人のデザイナーが顧客。Omnitureの顧客はWebサイトを所有する企業です。もちろん、インハウスのデザインチームを持つ会社もあるでしょうが、OmnitureのエンドユーザとAdobeのエンドユーザは重ならないんですよ。

 では、この重ならない顧客層ゆえに未発掘の市場が生まれるかといえばそんな感じはさらさらしません。デシジョンメーカーが違うわけで、一つの入り口からクロスセルかけられるかといえばそうでもないだろうと。

 海外での反応を見ると、結構納得するのは「Omnitureにとってはおいしい話」という指摘。例えば、あたりでは、Omnitureは無料のGoogle Analyticsの存在により厳しい競争環境におかれている、と。

 もちろん、Omnitureの持つサービスやノウハウには価値があるんです。そうでなければ、あれほど短期間で日本法人を立ち上げて一気に顧客を獲得できるはずはないわけで。しかし、Adobeの持つワールドワイドの商流を通じて拡販できるか、といえばかなり疑問を持つわけです。Omnitureの強みはコンサルティングの部分に相当依存していて、単純にセールスチャネルを拡大してもそれに対応するだけのスケールがあるのかな、と。

 結局のところ、ぼくは、Adobeが買いたかったのはFlashの未来なんじゃないかと思います。

 SEO、SEM、Google Analyticsという、Googleを中心に進展するインターネットの世界において、Flashは制作サイドのインスピレーションを表現する手段としてデファクトスタンダードになったにもかかわらず、サーチエンジンに対するIndexabilityとWebサイトのROI向上を求める声の高まりに対するMesurablityの2つの側面から謗りを受けているがゆえに、その将来性に不透明さを残しています。

 そしてもう一つ、インターネットがマルチデバイスに向かって開かれていく中で、Flashは後手に回っています。iPhoneはFlashのない世界でもリッチなユーザエクスペリエンスを実現できることを証明してしまいました。IMJモバイルが実施したモバイルFlashサイトに関するユーザビリティ調査を見てもケータイユーザはそれほどFlashサイトを支持していないように思えます。

 iモードが牽引し独自の進化を遂げた日本のケータイにおいてFlash対応が進む一方、海外はBlackBerry、そしてiPhoneの登場により浮揚し、Windows Phone(Windows Mobile)、Android、Palm webOS、Symbian OSといった様々なプラットフォームで展開されるスマートフォンによるモバイルインターネットが拡大しているわけですが、Adobeはようやく2009年10月にスマートフォン向けのFlash Playerのベータ版公開を発表したばかり。iPhone OSについては対応予定を口にしたもののロードマップは明らかにされていません。

 AdobeとしてはFlash Playerの対応機種を広げると同時に、Omnitureのソリューションを取り込んでFlash自体をより精度の高い測定が可能なリッチコンテンツソリューションに仕立て上げていくことで、ビジネスサイドからの離脱(=Flashはいらない)を食い止めたい、といった結構単純な動機なんじゃないのかなあ、というのがとりあえずの結論。ともかく、すべてのインターネットデバイスをFlashに対応させ、その効果を可視化することでロックインする、というのがAdobeの目指すところだろうと考えております。

fの挑戦
 このディールを見て、rssリーダに登録しているリソースを色々あさっていたんですが、TechCrunch Japanを見たらスタートアップベンチャー50社を集めたコンテストイベント、TechCrunch 50の真っ只中だったようでその関連記事がびっしり。で、この中にFHTML Inc.という面白い会社があったんですよ。
AdobeのFlashは言うまでもなくこれまで長年、Webにとって不可欠だった。でもそれはいまだに、検索エンジンと複雑性の2点で大きな弱点を抱えている。AdobeなどがFlashを使ったWebサイトをGoogleフレンドリにしようと腐心してきたが、通常のHTMLのページのようにクローラの対象になるまでには至っていない。FluidHTML通称”Fhtml”は、Flashのような機能と使いやすいHTML言語との融合を目指す新しいサーバサイド*のマークアップ言語だ。〔*: 標準のHTML言語の大部分は要素の表示のための描画処理をブラウザ==クライアントサイドが行う。〕

TC50: FluidHTMLはFlashをHTMLのように簡単に書ける新しいマークアップ言語
 記事中にTC50でのプレゼンの模様を録画した動画があるんですが、本当にこれでいけるならすごいです。上記で触れられていないもう一つ重要な可能性、それは低電圧で低速のCPUを用いているモバイルインターネットデバイスは帯域幅に比べ端末の処理能力がプアだということ。サーバサイドで処理を最適化できるのならば、ことモバイルデバイスでRIA(Rich Internet Application)を実現する上では優位性があるんじゃなかろうか。

 Flashだけでなく、Flex、AIRを含めたRIAこそが、Adobeの生命線で、MSもSilverlightを投入して迎え撃つ構え。GoogleはAjax+Android。HTML 5なんてのもあるらしい。この構図をひっくり返すだけの中身がFluidHTMLにあるのかどうか、正直今のところは判断がつかないのですが、アプリケーションサーバベンダが買収するようなことがあればたぶん本物だろうと思うので今後に注目してみます。

WebAnalytics業界の再編はあるんだろうか
 無料を武器に、おそらく相当なシェアを確保しているはずのGoogle Analytics。独立系のWebAnalyticsベンダートップのOmniture買収を受けて、さらなるお買い物はあるんでしょうか。Silicon Forestの記事を読むとwebtrendsのCEOは「いいねぇ」みたいな感じらしいですが。

 Omnitureとしては18億ドルは実にいい値段がついた、という感じですけど、この合併でビジネス的にさらに強くなるのか、と考えてみても、多変量テスト関連で何らかワークフロー的に強化されたソリューションが出る可能性は感じるものの、WebAnalytics自体を押し上げる可能性はそれほど感じられない、というのが怪しいマーケターの直感ですけど、どうなんでしょうか。これがむしろBIツール系のベンダーとの合併だったら、もっと凄まじいシナリオがいくつも生まれる気はします。

 そういう意味では、2009年7月にIBMがSPSSを12億ドルで買収(この金額を見るとやはりOmniture高くないかなあ)という案件からForrester Researchが「データ分析ソフト市場の再編が加速」という見通しを出しているようで、IBMがさらにwebtrendsも頂いときまひょか、みたいな勢いで一気にWebAnalyticsとBIをくっつけてしまうような流れもなくはないんじゃ。

 一度はadCenter Analyticsを断念したMSもSASとwebtrendsを飲み込んでWindows ServerにfluidHTML載せちゃったらどうですかね。個人的にはMSこそSPSSを買収してClementineのインターフェースをAccessに入れ込んでほしかったんですが。

 国内でも3月にNTTコミュニケーションズがVisionalistのデジタルフォレストを買収、といったケースが出ており、独立系のWebAnalyticsベンダーは費用対効果やコンサルティングサポート、モバイルインターネットデバイスのWebAnalytics機能の提供、複数のアドネットワークを統合したSEMの配信とテスティング、効果測定の自動化など、どこまでGoogle Analyticsとの差別化を図れるかは生き残りを賭けた大きな課題。たぶん年度内にまだ動きはあるんだろうと思いますがはてさて。







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