「MAM PROJECT 007:サスキア・オルドウォーバース」(東京・森美術館)

art 】 2008 / 07 / 13
ダミアン・ハーストの悪趣味な立体作品、「母と子、分断されて("Mother and Child, Divided")」はこの機会を逃すと次に日本にくるのはいつだろう、ということで、行くつもり満々でいてすっかり忘れていた森美術館の「英国美術の現在史:ターナー賞の歩み」展が気がつけば7/13で終了。土曜日、暑い中をとぼとぼと六本木まで赴いた。

思ったより人の入りはよい。エレベータの待ち行列に並び、中に入ればあちこちで人だまりができていて、ちょっと浮ついた雰囲気。森美術館は、やはり夜に行ったほうがよさそうだ。

結論として悪くはない展覧会だったが、最後に大どんでん返し。同時開催の「MAM PROJECT 007:サスキア・オルドウォーバース」に出ていた2つのビデオアートが作品として圧倒的な力を有していて、ターナー賞の20年余りの歴史と引き換えにしても惜しくはないとすら思わせたからだ。

1971年オランダ生まれのサスキア・オルドウォーバース(Saskia Olde Wolvers)はオランダ、イギリスで美術を学びロンドンを拠点に活動する女性作家。1998年の初個展からわずかに9つの作品を発表しているにすぎない。一見CGに見えるさまざまなオブジェはすべて手作りでこれらを撮影した作品は完成までに2年近くを要するという。MAMプロジェクトは新作の展示を原則としているらしいが、そこを曲げて日本初公開の作品として2点、「プラシーボ("Placebo", 2002)」と「キロワット・ダイナスティー("Kilowatt Dynasty", 2000)」を展示していた。

2006年のアムステルダム市立美術館の個展「ザ・フォーリング・アイ("The Falling Eye")」のために用意されたらしい紹介ビデオがyoutubeにあり、いささかセンスのない編集と短い尺ながら雰囲気はつかめる。時間が短いのが本当に残念だけれど。



0:47あたりからの白い病室のような風景に白い液体が滴り続けるものが「プラシーボ」、1:49あたりからの奇妙なガラス細工が自然の風景に置かれているものが「キロワット・ダイナスティー」。

購入したカタログを見ると今年オオタファインアーツで個展があったらしい。展覧会履歴になく、探してみると嶋田さんレビューをあげていて、MAMプロジェクトと同時開催で5/31まで、新作の「デッドライン("Deadline", 2007)をかけていたようだ。いやまいった。まったく初めて聞く作家で、ぼくはこの併設展にはまったく期待していなかったのだ。見ることができなかったことが悔やまれる。この次、いつ彼女の作品を見られるのだろうか。日本語字幕付きのDVDの発売を心から望むけれど、期待薄だよな。

2点とも驚くべき作品で、一般的にはおそらく白い液体の質感と変化にあふれる「プラシーボ」をより高く取ると思うのだけれど、個人的には「キロワット・ダイナスティー」にやられた。これは、とてつもない作品だ。

シュルレアリスムとも通底しているように見える端正な映像は際立っているが、どことなく既視感を覚えるそれで、この映像だけを持ってぼくは驚きはしない。真に驚くべきはその構成だ。サスキアはドキュメンタリーの手法を用いて、隅々まで作り上げた、人の温度を伴わない奇妙な風景が変容していく上に、奇妙なナレーションを重ねていく。一見意味ありげでいて、微妙に現実の枠組みから逃れずれ続けていくストーリーラインはその奇妙な風景とまったく重なり合わないにもかかわらず、それゆえにひとつになり、そこで見聞きしているものとは別のどこかへと観衆をいざなう。強いて言えば、イヴ・タンギーの画面にアンドレ・ブルトンがテキストをつけているような感じ。優れた美学と放埓なロジックが同居する、これは端倪すべからざる仕事だ。

ぼくはそれこそ呆然として六本木をあとにした。

ついでなので、「英国美術の現在史」展も概観しておこう。

トニー・クラッグは想像通りよい。が、前回の「アートは心の中にある」で展示されていたものの方が作品として上か。リチャード・ロングはあの場所にあの作品があることに意味を見出せない。彼の作品としてはあまり重要ではないと思う。ギルバート&ジョージはオリジナルをほとんど見ていないが、思ったよりもずっとよい。もっと評価されていい作家か。ダミアン・ハーストは多くの人が注視していた。やったもの勝ちだが、今日の声価は伊達ではないと思わせるだけの1作。アニッシュ・カプーアの「Void No.3」は今展の出展作中で最良。ミニマル・アートとオップ・アートの組み合わせという気もするが、凄まじい質感。ウォルフガング・ティルマンスの空間構成は卓抜。どこかで聞いた名前だと思えば、ワコウ・ワークス・オブ・アートの取扱作家。ビデオ・アートの中ではマーク・ウォリンジャーがよかった。夜の美術館のエントランスで熊の着ぐるみを着てうろうろするパフォーマンスを撮影したもので、老若男女が楽しんでいた。マーティン・クリードの会場のライトが明滅する作品についてはSさんに伺いたいところですが。苦笑。個人的には有地+笹岡によるO美術館の「REFLEX 1997−Signal」の方がはるかに上だと思います。

※追記(2009/1/26)

去年の暮れに偶然YouTubeで「プラシーボ("Placebo", 2002)」を見つけました。日本語字幕がないので、MAMプロジェクトによるカタログがないとナレーションは理解しにくいのですが。




タグ:art review





Comment(2) | TrackBack(0) | art

この記事へのコメント
最近の作品、もっと良いですよ。w
Posted by SASA at 2008年07月15日 10:37
現役ならではの説得力のある一言……まいりました。微笑。

Posted by 衰弱堂 at 2008年07月15日 11:58
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