3人のオランダ人(Euro2008 Quater-finals:Netherlands - Russia)

sports 】 2008 / 06 / 22
グループCを圧倒的な破壊力で勝ちあがった80年代の伝説ファンバステン率いるオランダと、グループD初戦のスペイン戦で大敗を喫しながらEURO2004王者ギリシアとイブラヒモビッチを擁するスウェーデンを完封してこの一戦に臨むオランダの名将ヒディング率いるロシア。

1998年W杯のオランダを率いてベスト4、次の2002年W杯では韓国を率いてベスト4、2004年にはPSVを率いてUEFAチャンピオンズリーグベスト4を成し遂げる一方で2006年W杯のオーストラリア監督も兼任し、32年ぶりの本戦出場とベスト16入り、その後ロシア監督に就任し、イングランドを地獄に叩き落してEURO2008の準々決勝までたどり着いた。およそオランダ人監督の中で最も成功している人物の一人、それがフース・ヒディングだ。

そして若くしてオランダ代表を率いるマルコ・ファン・バステン。80年代欧州を代表するFWとして3度のバロンドールに輝き1988年のEUROでは記憶に残るボレーシュートを決めてオランダに栄光をもたらした立役者。

そしてスタジアムのスタンドにはもう一人の伝説、オランダサッカーの源流、ヨハン・クライフがいた。

3人のオランダ人がピッチに熱い視線を送る中はじまった一戦はロシアがすべてにおいてオランダを圧倒、準決勝進出を決めた。かくしてぼくのEURO2008もひとまずの区切りとなった。

6月のバーゼルは気温28℃とスイスのイメージとは裏腹に過酷な環境。オランダはイタリア戦、フランス戦と同じスターティングメンバー、4-2-3-1の布陣。大会中にブラルーズの身内に不幸があり、メンバーは黒い腕章をつける。対するロシアは1ボランチ2トップの4-1-3-2。左アルシャヒンがやや下がり目に位置する。

ロシアボールのキックオフで始まった試合は序盤からロシアが圧倒、インプレーから、セットプレーから次々とチャンスを作り出す。相手陣からのビルドアップには高い位置からプレス、自陣を内に切れ込んでくるオランダ攻撃陣にはペナルティエリア内に万全の構えで数をおいて押し返す、と守りも堅い。

23分に表示されたボールポゼッションはオランダ46:54ロシアとロシア攻勢。しかもロシアは自陣内では手間をかけず足を使って両サイドを押し上げるのに対して、オランダは自陣内での組み立てがやや多い印象。自陣内でのパス回しはイタリア戦とも共通するところだが、どうもパスのつながりにスピード感がなく、足元での落ち着きも悪い。

前半、オランダのチャンスらしいチャンスは26分、ファン・デル・ファールトのCKからのエンゲラールのシュートと29分のファン・デル・ファールトのセンタリングがファン・ニステルローイに合わなかったシーンくらい。一方、ロシアはその後もカウンターから中に入って、あるいはミドルから、繰り返しオランダゴールを襲う。

明らかに精彩を欠くオランダ。何かおかしいぞ、というところでロスタイム1分を含めた前半が終了。この時点での興味は、ロッベンをどこで使うか、に絞られた。

後半、いつものようにファンバステンが動いた。カイトに替えてファン・ペルシ。誰もが予想したとおりの交代カード一枚目。開始早々、ゴール前のファン・ペルシにワンタッチで出たがこのボレーははずす。徐々にギアをあげていく予感漂うオランダ。しかし、そのギアは微妙にかみ合っていない。54分、ブラルーズがoutでDFのハイティンハin。貴重なカードの1枚をさらに消費。一方、流れをつかんでいる自信からかヒディングは動かない。

この交代直後の56分、ロシアがのたうつオランダを追い抜いて華麗に先制。アルシャヒンから出たパスをセマクは左サイドを突破、その折り返しをバブリュチェンコが合わせて待望の先取点を得る。

その後もことさら攻撃の手を緩めはしないロシア、58分には左サイドサエンコに絶妙のスルーが通りフリーで打つもはずす。一方オランダはいよいよ点を取らなければならないが、フィニッシュまでの崩しの形がまったく見えない。

そして62分、ファンバステンが最後の交代カードを切る。エンヘラールに替えてアフェライ?! もうこの試合にはロッベンの出番はなくなった。この局面を変えられるのはロッベンだと期待していたのだが……(ロッベンはゲーム後のインタビューで金曜日の練習でそけい部を再度痛め、土曜日の最終調整でも痛みはひどくこの日の試合前にゲームの出場がないことを告げられていたという)

69分、ヒディングが動く。セムショフに替えて新鋭ビラレトディノフをピッチに送り出す。1点リードして、相手の交代がなくなったのを見越した上で1枚目。ヒディングの老獪さか。

同点ゴールが欲しいオランダ、しかしプランは見えない。当初、2列目に3人のMFタイプが並ぶことを懸念する向きがあったがこの試合ではその悪い面も出た感じ。スナイデルは常に中央の分厚いロシアDF陣の前で動き、隙を見てミドルを放つが精度がない。アフェライも縦に進むよりは分厚いうちに向かってボールを進めてしまう。自陣からのビルドアップに、画面内で見るだけでも3人を残して上がっていくもろい組み立て。おそらく、各選手ともフィジカル面に相当問題があるようだ。ゲーム後のファンバステンのコメントでブラルーズ交代の場面に触れて、ほかにも何人かいつもの動きができない選手がいたともらしている。

74分、3人目のオランダ人、スタンドにいるヨハン・クライフが大写しに。難しい男の表情は険しいが、怒りを含んだものではなかったような気もする。今日一日はオランダの敵になる、と豪語したヒディング・ロシアが繰り広げる足を使ったクリエイティビティあふれるプレイを前に輝きを失いつつあるオランダをいとおしむ、そんな風情に映った。

オランダのボールつなぎの悪さは相変わらずのまま、スピーディに展開できずロシアが守備陣形を整えきったところに遮二無二中央に寄せて一発の展開を狙うという寂しい展開が続く。スナイデルが何度も何度もミドルを叩き込んでいる。ロッベンがいれば、もう少しサイドをえぐる攻撃でバリエーションをつけられたのではないか、という思いが幾度もよぎる。

81分、再びヒディング。サエンコに替えてトルビンスキー投入。1点を守るのではなく、あわよくばもう1点取ってオランダの息の根を止めようという積極策。このままオランダは息絶えてもおかしくはなかった。それほどまでに、ピッチ上のパフォーマンスには差があった。

ぎりぎりのオランダをすんでのところで救ったのはエース、ファン・ニステルローイだった。86分、バブリュチェンコのハンドで得たFKは左サイド深い場所。FKを蹴るスナイデルがゴール前にあげたセンタリングは逃げていく難しいボール。これをファン・ニステルローイが合わせて同点ゴール。エースの意地の一撃はEURO通産6ゴール目でクライファートと並んだ。

セットプレイ以外では点の入る予感がなかったオランダがセットプレイで同点ゴール。もう1点取るプランは果たしてあるのか。まるで織り込み済みだといわんばかりに表情を変えないヒディング。もはや打つ手は使い果たし見守る以外にないファン・バステンの稚気を残した表情。

ロスタイム2分、最後のプレイでスナイデルがゴールライン際のボールを空中で残して折り返そうとしたところにコロディンがつっかけてファウル、イエローが出る。累積2枚でコロディン退場? しかし、副審はボールアウトの判定でイエローも取り消し。試合の決着はハーフ15分の延長戦へ。ボールポゼッションはオランダ57:43ロシアとオランダ優勢だが、ペースは終始ロシアが握っていたという印象。

ロシアのキックオフではじまった延長戦前半、双方がゴールをうかがうもあと一押しの展開。しかしオランダはここへ来て足が止まり、ハーフウェイライン付近のルーズボールを確実にロシアが取って攻めを組み立てる。

6分、ファビルチェンコが左サイドで一人交わしてシュートを打つが惜しくもバーに当たり決まらず。9分、ロシアはゴール前31mのFKをコロディンが豪快に打ち込むがわずかにバーの外。オランダはもはや見る影もない。うまく守りきってPK戦に持ち込めばファン・デル・サールがいる、とアナウンサ。ロシア攻勢で15分終了。

そして後半、迎えた22分。アルシャビンが左サイドを1人引き連れて独走。一番深い位置からループで折り返したボールはファン・デル・サールの頭の上を超え、これを後半交代で入ったトルビンスキーが合わせて勝ち越し点。決定的な1点が、美しい突破、美しい連携から生まれた。

25分、ロシアは最後まで残しておいた交代カードを切る。パブリチェンコに替えてシチェフ投入。采配の面でもロシアのヒディングがオランダのファン・バステンを圧倒する。

そして26分、スローインから出たボールがアルシャヒンへ。内に切れ込んで打ったシュートはオランダ選手の足に当たり角度を変え、ファン・デル・サールの股下を抜けていった。勝負を決める大きな3点目。

2点差となったオランダはもはやシンプルにゴール前に放り込む以外選択肢がない。かくしてヒディング・ロシアが結果でも、内容においてもオランダを圧倒して準決勝進出を決めた。

オランダファンとして、オランダ贔屓で見ていたが、この日のロシアはそれでもすばらしいサッカーを見せ付けてくれた。高い位置でのプレスで奪ったボールをシンプルに前に出して縦にオーバーラップしていく速い展開。再三にわたるサイド突破と折に触れて見せた豪快なミドル。トータルフットボールの言葉は、今日に限って言えばロシアとともにあった。そういえば試合前、クライフはインタビューでロシアを警戒するコメントを出している。
オランダは21日の準々決勝でロシアと対戦するが、クライフ氏は、国内リーグの日程がロシアに有利に働くかもしれないと考えている。「3月からリーグがスタートしたロシアに対して、そのほかの国は5月にシーズンが終了した。6-7カ月間の試合の疲れがたまっているが、彼らのシーズンは始まったばかりだ。体調面では、ロシアの方が上のだ」

 「クライフ氏、新たな黄金世代を賞賛」(euro2008.uefa.com)
とまれ、今日のロシアは間違いなく強かった。強力なミドルからの決定力を持つドイツ以外とは互角に戦えるだけの実力がある気はする。ヒディングも、敵将ファン・バステンも、ロシアを称えた。スタンドのクライフの目に、この試合はどのように映ったのだろうか。

 ・マッチセンター:オランダ 1-3 ロシア(uefa.com)


タグ:EURO2008 Football





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